東京銀杏会の第26回トップフォーラムは、本年(2021年)3月13日に、学士会館202号室で、「コロナ後の世界、世界を覆うまだら状の秩序」をテーマとして開催されました。

コーディネーターは久保文明東京大学大学院法学政治学研究科教授で、パネリストは池内恵東京大学先端科学技術研究センター教授、川島真東京大学大学院総合文化研究科教授、斎木尚子東京大学公共政策大学院客員教授の3名でした。

テーマの標題では、「コロナ後の世界」と言っておりますが、完全にコロナ後という訳にはいかず、懇親会はできないなど、不完全な形で開催しました。しかし、昨年(2020年)3月14日の第25回トップフォーラムは中止となったことを鑑みれば、かなりの前進であったと考えます。それでも、第25回トップフォーラムに講演予定資料を提出されていた久保文明氏と斎木尚子氏には、本年(2021年)のトップフォーラムでも再度ご登壇頂き、まことに有難うございました。

「まだら状の秩序」という言葉は、パネリストの池内恵氏が巻頭言を寄稿された冊子アステイオン092号(2020年6月11日)が、「世界を覆う『まだら状の秩序』」という特集を組んでいることからとったものです。このアステイオンという冊子には、コーディネーターの久保文明氏も寄稿されております。

今回のトップフォーラムには42名の会員がご参加いただき、ようやく会の再スタートが切れたように思います。これからも皆様の積極的なプッシュが望まれるところです。

 

トップフォーラムは、13時から森田富治郎会長の開会の辞で始まり、続いて、久保コーディネーターのプレゼンテーションが行われました。久保文明氏は専門である「アメリカ政治の風景」ということで、イデオロギー的分極化、政党内の分裂、外交政策における分裂について話されました。外交政策における分裂は、民主党対共和党だけでなく、エリーティズム対ポピュリズムもあります。その後、外交・内政における政策的収斂についてもお話しされました。最後に、バイデン外交の特徴について話されました。

パネリストの池内恵氏は、ZOOMでのご参加でしたが、中東のまだら状の秩序、つまり多様な主体の織りなす中東新秩序を望見されました。トルコ・イランのような地域大国が台頭すると共に、シリア、リビア、イエメンのような、中央政府の支配が及ばない空間を多く抱えた国が併存し、「まだら状の秩序」が広がっている。2020年には、パレスチナ問題を“one of them”化することに成功したイスラエルが主導権を確立したが、トルコの台頭も見られる、等々です。

パネリストの川島真氏は、中国から見るまだら状の米中対立について講演されました。米中間には、台湾、香港、新彊ウイグル自治区、チベット自治区、価値問題+社会と共産党の分断など、核心的利益に触れる問題がありますが、中国は「新型大国関係」を維持したいと考えているようです。中国側は「気候変動」を協力の軸に据えたいようですが、バイデン・チームは宇宙問題で中国との協力を模索しているようです。日本は、G7の中で最も中国に「優しい」存在だと思われており、一帯一路を「支持」しているという印象であります。中国とのサプライチェーンを維持し、中国の新たな経済政策「二つの大循環」を支持しているようです?一方、中国はCPTPPへの意欲を公言している、等々です。

パネリストの斎木尚子氏は、国際経済秩序の行方について講演されました。日本の戦略としては、日本を核とする、ルールに基づく、自由経済圏の形成を図ることだと言われました。その為には、メガFTAで、貿易自由化、先進的かつハイレベルなルールの実現、当事者間の対話、有志国連合の強化を図るとともに、WTO改革に向けてのリーダーシップを取ることが必要だとされました。WTO改革の中身は、電子商取引交渉、漁業補助金交渉、市場歪曲措置への対応、途上国地位(S&D)問題、通報義務履行確保・透明性強化、上級委員会の機能回復、及び貿易自由化+ルール改訂・履行監視・紛争解決制度の三位一体改革だとされました。

コーディネーターとパネリストのご講演の後、パネルディスカッションと会場との質疑応答が行われました。特に標題にある「まだら状の秩序」とは何であるか、もう一つ分からないという指摘がありました。面白い言葉だが、具体的にどういう状態で、どうすれば対応できるのか、あまりクリヤーにはならなかったようです。また、インド太平洋諸国とかアフリカへの言及はなく、全世界をカバーした概念なのか、よく分かりません。

最後に、各パネリスト・コーディネーターによるまとめが行われました。謝辞は、岩村敬代表幹事でした。

 

今回のトップフォーラムの内容は、本年(2021年)の10月末発行予定の、会報『銀杏』第22号に掲載する予定です。

今回のトップフォーラムでは、ZOOMを用いた、池内パネリストのリモートな参加が行われました。しかし、事務局の不手際も重なり、少しく時間の空費がありました。特に、老齢化が進む事務局では十分な対応が出来ず、パネリストの川島真氏の絶大なるご助力を賜りました。川島氏に厚く御礼申し上げるとともに、今後の事務局は強力なIT化を図る必要があります。私のような老兵は、ただ消え去るのみです。若い会員の奮起と積極的な登用を望みます。

 

以上ですが、東京銀杏会のトップフォーラムのようなユニークなセッションは、若い方や女性の大きな登竜門であるとも考えられ、今後とも発展していくことを祈念します。

コーディネーターの久保氏は防衛大学校長に就任される予定であり、またパネリストの斎木氏は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事に就任されました。

 

なお、本トップフォーラムにも尽力された当会の土田晃道事務局長は、昨年(2020年)12月22日に他界されました。ここに深い弔意を表するものです。

トップフォーラム担当幹事 水谷潤太郎(S48 工)